AI翻訳や機械翻訳は、短時間で大量の文章を処理できます。社内確認や大意把握では、とても役に立つ場面があります。問題は、訳文が流暢になったことで、間違いも自然に見えるようになったことです。

昔の機械翻訳は、不自然な文が多かったため「これはそのまま使えない」と気づきやすい面がありました。現在のAI翻訳は読みやすいため、誤訳、訳抜け、数字の違い、用語の揺れがあっても、表面上はそれらしく見えてしまいます。

AI訳文は、なぜ見落としやすいのか

翻訳で本当に確認すべきなのは、「訳文だけを読んで自然か」ではなく、「原文と同じ意味が、使用目的に合う形で伝わるか」です。AI訳文を訳文側だけで読むと、文章の自然さに引っ張られて、原文とのズレを見落としやすくなります。

研究でも、ニューラル機械翻訳には、原文と関係の薄い出力や重大な誤りが起きることが報告されています。専門分野では、あらかじめ決めた用語を訳文に反映できるかも重要な課題です。つまり、AIが出した文章を「日本語として自然」「中国語として自然」というだけで判断するのは危険です。

AI翻訳でよくある8つの問題

1. 専門用語が一般語になる

部品名、工程名、化学用語、UI名が、文脈に合わない一般語として訳されることがあります。

2. 同じ用語の訳が揺れる

同じ部品や機能が、ページごとに別の訳語になると、マニュアルや仕様書として使いにくくなります。

3. 否定・条件・範囲が変わる

「しない」「できない」「〜の場合のみ」などの条件が弱くなったり、範囲が広がったりすることがあります。

4. 訳抜けが起きる

短い注記、表中の項目、括弧内、脚注、繰り返し表現が抜けても、訳文全体は自然に見える場合があります。

5. 数字・単位・記号を見落とす

桁、単位、記号、型番、CAS番号、濃度範囲などは、翻訳文より小さく見えても重大な情報です。

6. 安全表現が弱くなる

警告、禁止、注意喚起の表現が柔らかくなると、製品安全やSDSではリスクになります。

7. 文章を勝手に補う

原文にない説明を補ったり、文脈からもっともらしい内容を作ったりすることがあります。

8. 用途に合わない文体になる

社内確認なら十分でも、顧客提出資料や公開マニュアルには不自然・不適切な表現が残ることがあります。

たとえば、どこが危ないのか

技術文書では、ひとつの単語の違いが操作や判断に影響します。たとえば「停止してください」と「停止できます」では、読み手の行動が変わります。「使用しないでください」が「使用しない方がよい」程度に弱まると、安全注意としての強さが変わります。

SDSでは、化学名、危険有害性情報、濃度、単位、CAS番号、章番号などが重要です。文章がきれいでも、数値や成分名がずれていれば、資料としては使えません。マニュアルでは、同じボタン名や部品名が訳文中で揺れるだけでも、現場の読者は迷います。

人が介入する意味

人の確認とは、AI訳文を軽く読むことではありません。原文と訳文を照合し、用途に対してどこまで直すべきかを判断することです。

  • 原文の意味が訳文に残っているか確認する
  • 専門用語、製品名、過去訳文との整合性を確認する
  • 数字、単位、型番、CAS番号、表中項目を確認する
  • 警告・禁止・条件表現の強さを確認する
  • 社内確認用か、顧客提出・公開用かで修正レベルを変える

つまり、AI翻訳ポストエディットの価値は、単なる言い換えではなく、「この訳文をこの用途で使ってよいか」を判断するところにあります。

特に人工確認が必要な文書

すべてのAI訳文に同じレベルの校正が必要なわけではありません。社内で大意を知るだけなら、ライトな確認で十分な場合もあります。一方で、次の文書は人による確認を強くおすすめします。

製造業マニュアル

操作、保守、警告、部品名、UI表記が誤ると、現場の使い方に影響します。

SDS・化学資料

化学用語、数値、単位、危険有害性情報の正確性が重要です。

顧客提出資料

自然さだけでなく、会社として出せる表現品質が必要です。

既存訳文を引き継ぐ改訂版

過去訳文、用語集、変更箇所を反映しないと、全体の統一感が崩れます。

ライトPE・フルPE・再翻訳の判断

AI訳文の状態がよく、原文との対応が保たれている場合は、ライトPEまたはフルPEで効率的に仕上げられます。しかし、訳抜けが多い、専門用語が根本的に合っていない、文章の構造が原文と大きく違う場合は、ポストエディットよりも人手翻訳に切り替えた方が結果的に早いことがあります。

大切なのは、「AIを使うか使わないか」ではありません。原稿の用途、リスク、求める品質に合わせて、AI訳文をどこまで利用できるか判断することです。

AI訳文校正を相談するときに必要なもの

AI訳文の確認をご依頼いただく場合は、原文とAI訳文の両方をお送りください。訳文だけでは、原文とのズレを判断できません。あわせて、使用目的、対象読者、希望納期、用語集、過去訳文、AI利用可否の条件があると、適切な校正レベルを判断しやすくなります。

参考資料

AI訳文をそのまま出す前に、原文と照合しませんか

楽訳では、中国語技術翻訳、SDS翻訳、マニュアル翻訳の経験をもとに、AI訳文のポストエディット、既存訳文校正、人手翻訳への切り替えを提案します。

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