AI翻訳の品質は大きく向上しています。社内で概要を把握する、海外資料の大意をつかむ、といった用途では非常に便利です。一方で、製造業のマニュアル、SDS、仕様書、顧客提出資料では、訳文が自然でもそのまま使えないことがあります。

理由は単純です。AI翻訳は「それらしい訳文」を出すことは得意ですが、貴社の製品名、過去訳文、顧客指定用語、原稿の使用目的、法規・安全上のリスクを完全には判断できないからです。

人の確認が必要になる理由

翻訳で確認すべきなのは、訳文だけを読んで自然かどうかではありません。原文の意味が残っているか、重要な条件が弱まっていないか、数字や単位が変わっていないか、用語が一貫しているかを確認する必要があります。

特に中国語技術翻訳では、簡体字・繁体字、対象地域、業界用語、既存訳文との整合性も重要です。人の確認は、AI訳文を「きれいな文章に直す」だけでなく、「この用途で使ってよい訳文か」を判断する作業です。

AI翻訳で人の確認が必要になる具体例

1. 禁止表現が弱くなる

原文が「絶対に使用しないでください」という禁止表現でも、AI訳文では「使用しない方がよい」のように弱くなることがあります。安全注意やSDSでは、表現の強さを人が確認する必要があります。

2. 条件文の範囲が変わる

「電源を切った場合のみ作業する」のような条件が、訳文で曖昧になると、作業手順の意味が変わります。「のみ」「〜の場合」「〜を除く」などは原文照合が必要です。

3. 同じ部品名が別々に訳される

同じ部品やボタン名が、ページによって別の中国語になることがあります。マニュアルでは、読者が同じものを指していると分かるように用語統一が必要です。

4. UI表記と本文の訳がずれる

画面上のボタン名、メニュー名、エラー表示と、本文中の説明が一致しないことがあります。ソフトウェアや装置マニュアルでは、UIと本文の対応確認が重要です。

5. 数字・単位・記号を見落とす

温度、圧力、濃度、桁、範囲、型番、記号は、小さな違いでも意味が変わります。訳文が自然でも、数値情報は人が別途確認するべきです。

6. SDSの化学品名が一般的な表現になる

化学品名、CAS番号、成分名、危険有害性情報は、一般語として訳すと資料として使いにくくなります。既存の中国語名称や指定表記があるか確認します。

7. 原文にない説明が足される

AI訳文は、文脈からもっともらしい説明を補うことがあります。顧客提出資料では、原文にない内容を勝手に追加しない確認が必要です。

8. 訳抜けが自然な文章に隠れる

括弧内、注記、表中項目、脚注、短い注意書きが抜けても、訳文全体は自然に見えることがあります。訳文だけを読むチェックでは見落としやすい部分です。

文書別に見る確認ポイント

マニュアル・取扱説明書

マニュアルでは、操作手順、警告・注意、部品名、UI、図表番号の整合性が重要です。AI訳文が読みやすくても、同じ部品名が揺れていたり、警告表現が弱くなっていたりすると、現場で使いにくい文書になります。

SDS・化学資料

SDSでは、化学品名、CAS番号、濃度、単位、危険有害性情報、応急措置、保管方法などを確認します。SDSは安全関連文書であり、読みやすさだけでなく情報の正確性が重要です。

仕様書・技術資料

仕様書では、条件、範囲、数値、単位、型番、規格名が重要です。「以上」「以下」「未満」「以内」のような範囲表現は、翻訳でずれると条件が変わります。

顧客提出資料

顧客に提出する資料では、誤訳だけでなく、文体、表記、会社としての印象も確認します。社内確認用なら許容できる表現でも、顧客提出資料では修正が必要になることがあります。

ライトPE・フルPEで確認範囲は変わる

AI訳文の確認には、軽い確認で十分な場合と、原文照合を含む全面的な確認が必要な場合があります。

  • 社内で概要を知るだけなら、重大な誤訳や数字を中心に確認するライトPEが選択肢になります。
  • 顧客提出、公開資料、マニュアル、SDSでは、原文照合、用語統一、表記、文体まで確認するフルPEをおすすめします。
  • AI訳文の品質が低い場合は、PEよりも人手翻訳へ切り替えた方が早い場合があります。

ポストエディットではなく再翻訳を検討する場合

AI訳文に訳抜けが多い、専門用語が根本的に合っていない、文の構造が原文と大きく違う、原文にない説明が多く追加されている場合は、ポストエディットよりも再翻訳を検討した方が安全です。

特にSDSや安全関連文書では、修正箇所が多すぎるAI訳文を直し続けるより、原文から翻訳し直した方が品質を管理しやすいことがあります。

AI訳文チェックを相談するときに必要な資料

AI訳文の品質確認をご相談いただく場合は、以下の資料をお送りください。

  • 原文ファイル
  • AI翻訳済みの訳文
  • 使用目的(社内確認用、顧客提出、公開資料など)
  • 対象読者・対象地域
  • 用語集、過去訳文、指定表記
  • 希望納期、納品形式、NDA希望の有無

訳文だけでは、原文とのズレを判断できません。必ず原文とAI訳文の両方をお送りください。

例:日本語マニュアルをAIで簡体字中国語に翻訳しました。顧客提出前の確認を希望します。原文Word、AI訳文Word、過去訳文、用語集があります。警告表現、部品名、UI表記、数字・単位を重点的に確認してください。

まとめ

AI翻訳は便利ですが、技術文書では「自然に読める」だけでは不十分です。禁止・条件・数字・単位・専門用語・訳抜け・SDSの安全情報など、原文と照合しなければ分からない点があります。人の確認は、AI訳文を否定するためではなく、使える品質へ整えるための工程です。

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